夢の中で、私を止めようと最後に腹にささったのは山伏国広その刀だった。
手を斬られ足を刺され、それでも向こう岸へ進もうとする体はもう痛いんだか熱いんだか重いんだかわからなくて、もはや理性ではなく感覚、あるいは本能みたいなものだけで動こうとしているのがわかった。
もやのかかった横断歩道の反対側に「その人」が立っていて、信号は赤。行ってはいけないとわかっているのに人間の欲というのはおぞまくして、車が往来していようがおかまいなしで、私は血まみれで対岸へ向かおうとしていた。
どうしても…どうしても触れたかった。一度。もう一度だけでも。触れてほしかったし、抱きしめられたかった。頬を合わせて愛を囁きたかった。もうそれだけしか考えられなくて、「だめだ、だめだ」をうわごとのように繰り返しながら、どこかから飛んでくる刀身たちが必死に四肢を刺して止めるのもかまわず私は進んだ。
はっと衝撃に気がつくと、その瞬間もう腹から目が離せなくなっていた。
立派に反り返った刀がずぶりと私を貫通していて、もの言わぬ力で私をその場所に縫い止める。足はそこから前に動くことはなくなっていた。ゆっくりと溢れる血のにおいを嗅ぎ、手が切れるのもかまわずその刀身を掴むとすぐに「ああ彼だ」とわかって、その感覚が私をたいそう安心させた。
さっきまで刀身しかないと思っていたそれは意識をしてみるとハバキも鍔も柄もしっかりとついていて、順々に柄頭に向かってなぞるように撫でていくうちにぐんと引っ張られるような眠気が襲ってきた。あ、気絶すると反射的に思う。横断歩道はもう見えなくなっていた。あんなに焦がれた人の姿も。どんどん遠くなる。顔はもう見えない。ああもう一度…と思うまどろみの中で、はっきりと声がした。それはあの人ではなかったけれど、それでいいと思える声だった。すごい力で私を引っ張って呼び戻す、だけどこわくはなかった。身をゆだねても大丈夫だと思った。
「主殿、」